
【いろとりどりのヒカリ HD Re:GENERATION】感想

本作はFAVORITEより2012年8月31日に発売されたPC用18禁美少女アドベンチャーゲーム、『いろとりどりのヒカリ』のHDリマスター版となります。
内容としては前作『いろとりどりのセカイ』のファンディスクにあたるようです。ファンディスクということで主に前作各個別ルートのアフターストーリーが描かれてはいましたが、元々がシナリオ寄りのゲームということもあって、続編と言っても差し支えない重厚なストーリーが展開されました。
前作で謎を残したまま終わってしまった部分や、掘り下げの少なかったキャラクターの補完がされており、満足度の高いファンディスクでした。
追記よりネタバレを踏まえた感想になります。
加奈アフター
加奈ルートではなく白ルート定期。
辛いことを何でも糧として前を向いていくのではなく、なんとしてでも好きな人と一緒に居るのが一番幸せである。という悠馬の思想は本シリーズの考える幸福の形を表してるのかな、と感じました。前作の結末もそうでしたからね。
澪アフター
前作の澪ルートの最後で澪が「わたし」と言っていたことは全く気付いていませんでした。感想記事では綺麗な終わり方だったなんて宣っていましたが、これに気付いているとゾッとする終わり方でしかなかったですね。あひゅ。
一応「あたし」と「私」が入れ替わっていたなんてことはなくて安心しました。キスまでしておいて別人でしたとかなったら……つらい。
本ルートも澪アフターというよりはもはや神崎とおるアフターでした。神崎とおるの考える贖罪と被害者に対する誠意の見せ方については、最終ルートにも通ずるものがありました。
鏡アフター
鏡ルート・後編。前作で実装予定ではあったけど尺の都合で削られたのではないかと邪推してしまうほどに面白かったです。
前作で呪いの手紙を寄こしてきた謎の存在だった蓮也の真実がついに語られます。
それにしても、いろとりどりのセカイにおける最大の被害者じゃないか?と思える程に不幸が書き込まれていたキャラクターでした。これは悠馬を感覚として憎むのも仕方がなかったです。
また、悠馬が消えてしまった真紅の存在を最も大切にしてくれた世界であり、真紅の登場回数が多かったのも良かったですね。そのまま最終ルートにも登場する辺り特別扱いがされていました。
つかさアフター
つかさルート・後編。前作で実装予定ではあったけど製作上の都合で削られたのではないかと邪推してしまうほどに面白かったです。
前作の「働かなくてもいい世界」という謎すぎた世界の真相が明かされました。自由ではある代わりに心が壊れてしまうという現実世界の問題にも触れており、幸福になるということの難しさについては考えさせられる部分もありました。
ちなみに九重さやかは好きです。
藍ルート
全ての始まりである三人の物語。
前作で天下無敵の存在だった藍ちゃんは、やっぱり本作でも最強キャラという印象がありました。罪悪感と自己嫌悪で行動を起こしているとは言っていたものの、その行動を起こし続けて笑顔の魔法で周りを幸せにしていたのがかっこよすぎました。
最終ルート
本作は悠馬が前作の物語において、自分にとっての都合の良い世界を作り出し、身勝手に数々の命を弄んだことについての、贖罪と清算の旅でした。
個人的には前作のプレイを終えた時点では、悠馬は被害者の真紅と藍からは既に許しを得ていますし、そもそも一度真紅と結ばれることを諦めてその生涯を終える工程を経た上での幸せでしたから、既に十分に罰は受けていたと思っていました。
しかし、本作で明かされた世界創造の際には「多世界解釈」なるものが適用されるという新事実。加えて真紅と藍と並んで最大の被害者の一員である「本物の鹿野上悠馬」が、彼を「許さない」と言ったらそれまでです。
これまで悠馬に感情移入していたプレイヤーからしてみると、ユウマのやったことは既に反省している人間に対して実行するには中々にえげつない復讐ではあったので、「もうやめてくれ;;」という気持ちになることは必至でした。
しかし、至極自分勝手な理由で自分の命と名前を奪ってきた人間に負の感情を抱くのは当然であり、加えて言えば元父親としてレン改め悠馬を成長させたいという願い、彼が魂を賭して愛していた藍の心を救いたいという願いもそこには孕んではいました。
また、ユウマが悠馬を許す許さないということ以前に、悠馬が自分自身を許していないことこそが問題なのでした。
ただ、真紅が7月21日に亡くなったことに関してはエラーだったからユウマにとっては仕方ないとして、悠馬に贖罪の旅をさせることで結果的にはユウマ自身も大切にしていた人物の一人である真紅を数年間紛れもなく不幸にさせてしまったというしこりは残ってしまいましたから、そこはもう少し上手くやれなかったのかな……?と思いました。本人も明らかにやり過ぎたと反省してはいましたが。
もしくは『いろとりどりのヒカリ』の魔法によって、真紅が数年間悠馬を失っていたという辛い記憶も、ひっそりと幸せな記憶へと統合されていたのでしょうか? 自分の読み込みが足りていなかったら申し訳ございません。
前作の結末から10年前後(?)の時が経ち、悠馬が管理者になる前のハクとレンの物語から始まり、果ては二人の間にできた娘まで巻き込んでいくということで、ストーリーとしては非常に壮大な内容でした。逆境の大きさは前作以上でしたね。
他には鈴さんが青空との別れに涙する場面、鏡世界の悠馬がいまの世界の悠馬に激励を送る場面、他のキャラクター達による二度にわたる悠馬奪還の奮闘は印象に残りました。
悠馬・真紅・藍・ユウマの四人が、(現実の概念の言葉を持ち出すならば)前世で会っていたという新事実には驚きました。特に悠馬と藍とユウマに関してはかなり深い間柄です。悠馬と真紅のボーイミーツガールの部分に関してはあまり影響がありませんでしたが、他のキャラクターの関係性については少し見方が変わりました。
ハクがレンに対して放ってしまった魔法である「大嫌い」。本人としては誤って言い過ぎてしまったどころかまともな意思すら存在していなかったわけですが、それが巡り巡ってレンの人生を変えて今の因果へと繋がっているのは、紛れもなく言葉が世界を作るということを実感させるものでした。
本作の登場人物が抱くことになった「前世で経験した記憶や願いを引き継ぐ」「世界(記憶)をひとつにする」という感情は、本シリーズの独特な世界観に起因するものであり、自分のような現実の人間には事実として理解できても気持ちとして共感が難しいと感じてしまいました。「一体どういう感覚なんだろう?」という意味で。
しかし、本作はストーリーとしては前作以上にキャラクターが過酷な現実に立ち向かう様子を描いていると言っても過言ではなく、「言葉が世界をつくるということ」「罪人が幸せになるということ」等の強いメッセージ性を感じさせられるものでもあり、前作以上に見応えがある部分も多かったです。
罰を体感し続ける悠馬を始めとして、孤独になった真紅視点の描写や両親を失った青空視点の描写が多く、全体を通して読んでいて心が痛くなる時間の長いお話でしたが、その分最終的に悠馬が到達した「幸せになる魔法」という結末にはカタルシスを感じさせられました。
前作『いろとりどりのセカイ』での世界新構築という結末は、人によっては都合が良すぎると感じてしまう側面もあったと思えるので、そこを叩いてくれたのが続編である本作だったのかもしれません。
真紅や藍が諸手を挙げて悠馬を許してくれた分、ユウマだけは悠馬を許さないで「いてくれた」存在だった、とも感じました。