
「森の民の伝説」を勝手に紹介
やっぱりブログならではのことをやっていきたいですし、イナズマイレブン以外のことについても書いて行きたいので、【勝手に紹介】という新しいコーナーを始めることにしました。
自分の好きなゲームやアニメについて、全く知らない人にもなるべくわかりやすいように勝手に紹介していくだけです。稚拙な文章になってしまいますが、目を通していただけると嬉しいです。(正直書くのにかかる時間が膨大すぎるので、コーナー化するかどうかまだわかりませんが。)
今回紹介するのは僕が一番好きなアニメである、「甲虫王者ムシキング 森の民の伝説」です。

タイトルが長過ぎて入りきらなかったので止むを得ず縮めましたが、正式名称は「甲虫王者ムシキング 森の民の伝説」です。(このブログテンプレート可愛らしくて気に入ってるんですけど、タイトルの文字数に制限をかけられるのが少し悲しいです。)
放送されていたのはもう10年以上昔になりますね。ムシキングといえば当時社会現象となったゲームですから、たまにゲームセンターなどに行ってプレイすると同時に、そのタイアップ作品であるこのアニメを視聴していたという方も多いのではないでしょうか?
僕もこのアニメは一応リアルタイムで見ていましたが、シナリオがどうしても難しすぎて、当時は甲虫同士が戦っているところぐらいしか見るところがなかったです。主人公たちが喋っている台詞の内容もほとんど理解できませんでした。元々「ムシキングだから」という理由だけで見ていたアニメで、放送日の放課後に友達と遊んでいて見逃してしまうような日も多々あり、そこまで本気になって視聴しているということはありませんでした。
しかし高校生のある日にふとこのアニメのことを思い出して、改めて見たいと思いました。そう改めて見たいと思ったのは、登場人物の意味深い台詞や描写の一部が断片的に頭の中に残っていたこと、何よりも主題歌である「生きてこそ」が強烈に印象に残っていたからです。
自分が昔何気なく聞いていたあの台詞や、「生きてこそ」という主題歌にはどういう意味が込められていたのだろう。それも今なら理解できるのではないかと思い、軽いタイムトラベル()をするような気持ちでDVDを全巻購入して、改めて一話から視聴しました。
改めて見ると、自分が思っていたよりも数倍深くて完成度の高い作品だったということがわかって、驚かされました。シナリオの完成度の高さに加えてBGMや思い出補正も相まって、全話見終えるまでに何度も泣かされてしまいました。
4クールもあるアニメですが、数年に一度のペースで一話から視聴し直しているので、今では四周はしたと思います。それでは「甲虫王者ムシキング 森の民の伝説」(以下「森の民の伝説」)とはどういう作品なのか、紹介していきたいと思います。
不思議な力を持っている少年ポポが甲虫の王者ムシキングと、せまりくる異変から森を救うために冒険の旅に出た!
敵は赤い目をして凶暴になった甲虫達とそれを率いる謎の人物たち。彼らはいろいろな方法を使ってポポと、ポポの持つ「守護者の証」を狙ってくる。
彼らはいったい何をたくらんでいるのか?
森を襲う異変となにか関係があるのか?
それはポポの旅を通してだんだんと明らかになっていく!
(公式サイトより引用)
・キャスト
ポポ(CV:宮原永海)
パム(CV:宍戸留美)
ソーマ(CV:野島健児)
チビキング(CV:TARAKO)
ビビ(CV:高木渉)
バビ(CV:荘真由美)
ブー(CV:楠見尚己)
ペレ(CV:五代高之)
ピア(CV:詩乃優花)
パサー(CV:長島雄一)
チョーク(CV:木内レイコ)
グルム(CV:上別府仁資)
アダー(CV:佐藤正治)
というのも「子供向けだけど大人でも楽しめる作品」ではなく、「子供向けですらなくて大人向けの作品」だからです。つまり、子供が見ても十分に楽しめるとは言い難い作品です。その理由は言い出してたらキリがないぐらいたくさんあるのですが、いくつか抜粋して挙げていきます。
・甲虫バトルが飾りです
この物語の主役は甲虫ではなく、主人公たち森の民(人間の形をした生物)です。主人公にとっても敵にとっても甲虫はほぼ自身の戦いを補助するなどして助けてくれるだけの存在に過ぎず、彼らの目的とはあまり関わりません。
主人公の旅の目的は単純で、「とある場所へ行く」です。例えばポケモンでポケモントレーナーがバトルを繰り広げていくように、登場人物全員が甲虫使いで、お互いに甲虫を使役し合って戦っていき、世界一の甲虫使いを目指す物語……というわけでもありません。甲虫を使って戦うのは敵を除けば主人公のみで、他の仲間は皆肉弾戦や鞭での戦いがメインとなります。その主人公もポケモントレーナーのような甲虫使いというわけではなく、あくまで助けてもらっているだけです。
このように甲虫同士の戦いは、シナリオにおいては飾りと言っても差し支えないものでした。
・人が普通に死んでいきます
敵となる悪役たちは主人公一行を本気で殺しにかかってくるので、登場人物は意外とあっさり亡くなっていってしまいます。例えば2話で仲間になったキャラが3話で死にます。

▲2話で仲間になった「プゥ」と「デー」は、3話で甲虫の攻撃から主人公を庇って死んでしまいます。このアニメの方向性が詰まっているような重要なエピソードです。
・世界設定が難解です
中盤で明らかになる話なので詳しくは書けませんが、物語の舞台となる世界設定は非常に複雑です。作中では「この星」「使命」という単語が何度も出てきます。十人十色な立場や意志を持った、善悪では測り切れないようなキャラが多く登場し、交錯していきます。
と、このように子供向けとは言えないような成分を多分に含んでいます。
なのでデジモンアドベンチャーやボンバーマンジェッターズのような、子供向けながらも大人が見ても楽しめるような評価が高い作品とは若干毛色が違うと思います。しかし、大人が楽しめるという意味では同じです。
そう、「鬱キング」です。所謂鬱展開のような描写が非常に多い作品でした。
▲主題歌「生きてこそ」。このOPは1話から最終話まで一度も変わることがありませんでした。
主題歌である「生きてこそ」では、森の民の伝説の根幹となる2つのメインテーマが大いに歌われています。そのメインテーマとは、「親子」と「命」です。親子の絆や命の尊さが4クールの物語を通してじっくり語られていきます。
このアニメの大まかな流れというのは、概要の項目で公式サイトから引用させていただいたストーリーの通りで、ざっくり述べてしまうと「主人公がとある場所を目指して旅をする話」となります。全体を通して暗い展開が多いですが、その一話一話の構成は2クール目までと3クール目以降では少し変わります。
構成的には「アンパンマン」の話が近いと思います。アンパンマンは一話毎に新キャラクターが登場してその特技を披露しつつ、主人公であるアンパンマンと仲良くなったりばいきんまんに騙されたりしますが、最終的にはアンパンマンがばいきんまんを成敗するいつもの展開となり、大団円となって終了します。(既存のキャラクターが二人同時に再登場して交流し合うエピソードも多いですが。)
ただしアンパンマンとの大きな違いとしては、大団円で終わるとは限らないということです。ここでは2クール目までの雰囲気を象徴する回である、9話「なまけものの森」のあらすじを概括的に解説しながら、一例として挙げさせていただきます。
森の民には本来、虫たちと共に共生して森の世話をしなければならないという義務があります。しかし9話ではその義務を放棄し、腐った森の中に住んで一日中を寝て過ごし、足元に生えてくるきのこのみを食べて生活する村人たちが登場します。
森の民が森の世話を辞めてしまえば、森の世話をするのは虫たちだけの手には負えません。そうなってしまうと、虫たちは木から樹液を吸えなくなって、生活できなくなってしまいます。実際にその森の中では、餓死してしまったカナブンの死体が発見されます。しかし、村人たちは「自分たちさえ快適ならばそれでいい」「虫たちに迷惑をかけようが知ったことではない」の一点張りでした。

▲作中では蛾の仲間に寄生して繁殖をする菌類である冬虫夏草と対比され、「こいつらは森に寄生している」と称されました。
最終的には村人たちは敵の操る甲虫によってまとめて殺されてしまうのですが、誰もが死ぬ間際には「これも運命だし」などと言って、生を諦めていました。彼らと最後までわかり合えなかった主人公は、煮え切らない思いを胸に、その森をあとにします。
このエピソードでは、若年無業者への批判という意味での社会風刺、共生することに基づいたギブアンドテイクの関係の重みが描かれました。また、彼ら村人たちが辿る結末から――メインテーマである命の儚さも表現していました。
このように旅をする主人公たちが様々な価値観の登場人物と触れ合い、こちらに何かを訴えかけてくるような話で構成されていました。その中にはこの9話のように、大団円では終わることがない、救われないような話も少なくなかったです。
2クール目までは旅先で出会うキャラが悲劇に見舞われるような話が多かったですが、3クール目以降は主人公自身が数々の悲劇に襲われていき、自分の在り方や他人との関わり方について悩んだり葛藤したりしながら戦っていく話が増えていきます。言うなれば2クール目までは主人公は暗い展開の部外者でしたが、3クール目以降は当事者となり、戦渦の中へと身を沈めていきます。
同じキャラだけでだらだらと戦っていては、2クール目までと比べてメッセージ性は弱くなってしまうのでは? と、考えられると思います。確かに様々な価値観の人物と相見えることはなくなるので、話毎に別々の社会風刺や問題提起が行われるということは減ってしまいました。
しかしその代わりに上記で挙げた「親子」と「命」というメインテーマについて、主人公が仲間たちや敵キャラクターたちとの付き合いを通じて、深く語られていきます。それができるのは主人公たちと何度も対峙する、善とも悪とも言い切れない魅力的な敵キャラクターの存在があるからです。

▲黒幕に仕えている三人のキャラクターです。左から「グルム」、「パサー」、「チョーク」。見るからに悪の幹部という顔つきの彼らですが……。
彼らはただ悪いことをしているだけでなく、それぞれが明確な目的や野望を抱えており、とある理由を以って黒幕に従っています。さらにこの三人の誰もがメインテーマである「親子」か「命」について深い因縁があったり、強い執着をするような倫理観を持っています。
なので彼ら三人は森の民の伝説のテーマを誰よりも体現していて、このアニメには絶対に欠くことのできない役者たちです。森の民の伝説は主人公だけの物語ではなく、彼らの物語でもあります。彼らの因縁や倫理観については1話から綿密に伏線が貼られており、非常に見応えのあるものとなっています。
・蛇足とも言えるエピソードを含んだ4クール
これがこのアニメで一番問題だと思っているポイントで、僕がこのアニメを他の人にあまり勧めようとしない理由の大部分でもあるのですが、このアニメのクール数は4クールです。その計52話のエピソードのどれもが、シナリオの根幹に関わるような重要な話だったり、テーマに大いにあやかったメッセージ性の強い話なのかと言われると、そうでもありません。足踏みしてるようなエピソードも多々あります。なので人によってはどうしても冗長に感じてしまいます。
蛇足のような話が多いのは中盤以降です。中盤以降は前述の通り毛色の異なる物語になるのですが、主人公が葛藤したり敵と議論を交わしていく展開が増えた割には、進展が全く見られないような話が多すぎました。主人公はいつまで悩んでるんだ、いつまで同じ議論をしてるんだ、といった感じです。主人公たちに進展が見られないという意味では2クール目までも一緒ではありましたが、他の登場人物とのエピソードという意味では進展どころか解決までしっかり描かれているので、2クール目まではやきもきすることがなく見れました。
また、このアニメの第二の主人公と言われるキャラクターが、27話で大きなターニングポイントを迎える展開には賛否両論があります。
・子供向けとは言えない物語
「子供向けの皮を被った大人向けの物語」という話は冒頭でもしましたが、その問題点としての側面を掘り下げていきます。
このアニメの原作との共通点は「甲虫がバトルする」「『ポポ』『アダー』というキャラクターが登場する」のみです。主人公の仲間は甲虫を一切使わずに鞭や武術を使った戦闘をするので、そもそも甲虫同士の戦いがない話もいくつかあります。ポポとアダーが原作とアニメで共通している点は名前とビジュアルのみであり、性格・出生・目的などのキャラ設定は全くの別人です。
このように真に問題なのはシナリオの難解さというよりは、原作の雰囲気を踏襲してなさすぎることです。甲虫同士の戦いが魅力的でちびっ子たちを引き付けたゲームだったのですが、それがこのアニメではあくまでキャラたちの引き立て役にしかなっていないので、ゲームのタイアップ作品としてはいささか問題があると思いました。
まあ、ちびっ子の気持ちは自分にはわからないので、子供向けではないと言い切るには語弊を産んでしまうかもしれませんね。
・終始不安定な作画
作画が良い回と悪い回の格差がとにかく激しいです。僕はアニメ鑑賞はあまりしていないので、このような作画が誰だったかとか脚本が誰だったかなどの情報には疎いのですが、素人目で見ても明らかにキャラの造形が崩れているような回は多々ありました。


▲24話(左)と35話(右)のスクリーンショット。24話と比べると35話の作画が若干崩れてしまっていることがわかります。(どのアニメにおいても背景が雑に描かれることはしばしばあり、そこを切り取って作画崩壊だと騒がれることはあると思います。しかし35話のこのシーンは決して切り取ったわけではなく、24話と同条件で比較しております。)
上記の24話はストーリーの謎がひとつ明らかになる重要な回ですし、ラスボス戦となる49話以降の回も概ね作画のクオリティは高いので、大事な回の作画はしっかり描かれている印象を受けます。しかし大事な回だけに力を入れれば良いというわけではないですし、それまでとのギャップが激しすぎてはある意味では作画崩壊と成り得るので、総じて作画が良いと言えるアニメではなかったです。
それらのテーマを僕たちはアニメを見ていく中で、旅をする主人公と共に追い、「生きてこそ」の意味について考えさせられていきます。
そして、2クール目までに起こった悲劇と、3クール目以降に起こった悲劇。それら全てが収束して繋がるのが、物語のクライマックスです。旅の果てに、これまで旅の中で見てきた全てのもの、会ってきた全ての人々を心に留め、主人公はひとつの「選択」をすることになります。

▲「鬱キング」と呼ばれた物語は一体どのような結末を迎えるのか。ムシキングであってムシキングではない「森の民の伝説」の物語の終幕を、是非見届けていただきたいです。
自分の好きなゲームやアニメについて、全く知らない人にもなるべくわかりやすいように勝手に紹介していくだけです。稚拙な文章になってしまいますが、目を通していただけると嬉しいです。(正直書くのにかかる時間が膨大すぎるので、コーナー化するかどうかまだわかりませんが。)
今回紹介するのは僕が一番好きなアニメである、「甲虫王者ムシキング 森の民の伝説」です。

タイトルが長過ぎて入りきらなかったので止むを得ず縮めましたが、正式名称は「甲虫王者ムシキング 森の民の伝説」です。(このブログテンプレート可愛らしくて気に入ってるんですけど、タイトルの文字数に制限をかけられるのが少し悲しいです。)
放送されていたのはもう10年以上昔になりますね。ムシキングといえば当時社会現象となったゲームですから、たまにゲームセンターなどに行ってプレイすると同時に、そのタイアップ作品であるこのアニメを視聴していたという方も多いのではないでしょうか?
僕もこのアニメは一応リアルタイムで見ていましたが、シナリオがどうしても難しすぎて、当時は甲虫同士が戦っているところぐらいしか見るところがなかったです。主人公たちが喋っている台詞の内容もほとんど理解できませんでした。元々「ムシキングだから」という理由だけで見ていたアニメで、放送日の放課後に友達と遊んでいて見逃してしまうような日も多々あり、そこまで本気になって視聴しているということはありませんでした。
しかし高校生のある日にふとこのアニメのことを思い出して、改めて見たいと思いました。そう改めて見たいと思ったのは、登場人物の意味深い台詞や描写の一部が断片的に頭の中に残っていたこと、何よりも主題歌である「生きてこそ」が強烈に印象に残っていたからです。
自分が昔何気なく聞いていたあの台詞や、「生きてこそ」という主題歌にはどういう意味が込められていたのだろう。それも今なら理解できるのではないかと思い、軽いタイムトラベル()をするような気持ちでDVDを全巻購入して、改めて一話から視聴しました。
改めて見ると、自分が思っていたよりも数倍深くて完成度の高い作品だったということがわかって、驚かされました。シナリオの完成度の高さに加えてBGMや思い出補正も相まって、全話見終えるまでに何度も泣かされてしまいました。
4クールもあるアニメですが、数年に一度のペースで一話から視聴し直しているので、今では四周はしたと思います。それでは「甲虫王者ムシキング 森の民の伝説」(以下「森の民の伝説」)とはどういう作品なのか、紹介していきたいと思います。
概要
・ストーリー不思議な力を持っている少年ポポが甲虫の王者ムシキングと、せまりくる異変から森を救うために冒険の旅に出た!
敵は赤い目をして凶暴になった甲虫達とそれを率いる謎の人物たち。彼らはいろいろな方法を使ってポポと、ポポの持つ「守護者の証」を狙ってくる。
彼らはいったい何をたくらんでいるのか?
森を襲う異変となにか関係があるのか?
それはポポの旅を通してだんだんと明らかになっていく!
(公式サイトより引用)
・キャスト
ポポ(CV:宮原永海)
パム(CV:宍戸留美)
ソーマ(CV:野島健児)
チビキング(CV:TARAKO)
ビビ(CV:高木渉)
バビ(CV:荘真由美)
ブー(CV:楠見尚己)
ペレ(CV:五代高之)
ピア(CV:詩乃優花)
パサー(CV:長島雄一)
チョーク(CV:木内レイコ)
グルム(CV:上別府仁資)
アダー(CV:佐藤正治)
子供向けの皮を被った大人向けの物語
このアニメは子供向けの皮を被った大人向けのアニメです。……というのはなんというか月並みな褒め方すぎて、語尾に(キリッと書かれて煽られてもおかしくないような見出しなのですが、僕は真にそう考えています。しかし厳密には褒めているわけではなく、「子供向けの皮を被った大人向けのアニメ」というのは評価点でもありながら問題点でもあります。というのも「子供向けだけど大人でも楽しめる作品」ではなく、「子供向けですらなくて大人向けの作品」だからです。つまり、子供が見ても十分に楽しめるとは言い難い作品です。その理由は言い出してたらキリがないぐらいたくさんあるのですが、いくつか抜粋して挙げていきます。
・甲虫バトルが飾りです
この物語の主役は甲虫ではなく、主人公たち森の民(人間の形をした生物)です。主人公にとっても敵にとっても甲虫はほぼ自身の戦いを補助するなどして助けてくれるだけの存在に過ぎず、彼らの目的とはあまり関わりません。
主人公の旅の目的は単純で、「とある場所へ行く」です。例えばポケモンでポケモントレーナーがバトルを繰り広げていくように、登場人物全員が甲虫使いで、お互いに甲虫を使役し合って戦っていき、世界一の甲虫使いを目指す物語……というわけでもありません。甲虫を使って戦うのは敵を除けば主人公のみで、他の仲間は皆肉弾戦や鞭での戦いがメインとなります。その主人公もポケモントレーナーのような甲虫使いというわけではなく、あくまで助けてもらっているだけです。
このように甲虫同士の戦いは、シナリオにおいては飾りと言っても差し支えないものでした。
・人が普通に死んでいきます
敵となる悪役たちは主人公一行を本気で殺しにかかってくるので、登場人物は意外とあっさり亡くなっていってしまいます。例えば2話で仲間になったキャラが3話で死にます。

▲2話で仲間になった「プゥ」と「デー」は、3話で甲虫の攻撃から主人公を庇って死んでしまいます。このアニメの方向性が詰まっているような重要なエピソードです。
・世界設定が難解です
中盤で明らかになる話なので詳しくは書けませんが、物語の舞台となる世界設定は非常に複雑です。作中では「この星」「使命」という単語が何度も出てきます。十人十色な立場や意志を持った、善悪では測り切れないようなキャラが多く登場し、交錯していきます。
と、このように子供向けとは言えないような成分を多分に含んでいます。
なのでデジモンアドベンチャーやボンバーマンジェッターズのような、子供向けながらも大人が見ても楽しめるような評価が高い作品とは若干毛色が違うと思います。しかし、大人が楽しめるという意味では同じです。
「鬱キング」のテーマとは?
この森の民の伝説というアニメの俗称を、ご存知の方も少なくないのではないでしょうか。このアニメは上記のように子供向けとは言い難いような内容なのですが、特にゴールデンタイムなのにも関わらず人がたくさん死んでいく展開が目立ち、主題歌の哀愁と相まってどうしてもそのような暗い部分が印象に残りやすいです。そう、「鬱キング」です。所謂鬱展開のような描写が非常に多い作品でした。
▲主題歌「生きてこそ」。このOPは1話から最終話まで一度も変わることがありませんでした。
主題歌である「生きてこそ」では、森の民の伝説の根幹となる2つのメインテーマが大いに歌われています。そのメインテーマとは、「親子」と「命」です。親子の絆や命の尊さが4クールの物語を通してじっくり語られていきます。
このアニメの大まかな流れというのは、概要の項目で公式サイトから引用させていただいたストーリーの通りで、ざっくり述べてしまうと「主人公がとある場所を目指して旅をする話」となります。全体を通して暗い展開が多いですが、その一話一話の構成は2クール目までと3クール目以降では少し変わります。
2クール目までは「アンパンマン」
2クール目までは旅をする主人公たちが村を訪れたり家を訪ねたりして、知らない人物と出会って交流をし、人助けをしたりトラブルに巻き込まれたりしていく話が多いです。つまり、一話使い捨てのキャラが登場していく、一話完結のエピソードが大部分を占めます。構成的には「アンパンマン」の話が近いと思います。アンパンマンは一話毎に新キャラクターが登場してその特技を披露しつつ、主人公であるアンパンマンと仲良くなったりばいきんまんに騙されたりしますが、最終的にはアンパンマンがばいきんまんを成敗するいつもの展開となり、大団円となって終了します。(既存のキャラクターが二人同時に再登場して交流し合うエピソードも多いですが。)
ただしアンパンマンとの大きな違いとしては、大団円で終わるとは限らないということです。ここでは2クール目までの雰囲気を象徴する回である、9話「なまけものの森」のあらすじを概括的に解説しながら、一例として挙げさせていただきます。
森の民には本来、虫たちと共に共生して森の世話をしなければならないという義務があります。しかし9話ではその義務を放棄し、腐った森の中に住んで一日中を寝て過ごし、足元に生えてくるきのこのみを食べて生活する村人たちが登場します。
森の民が森の世話を辞めてしまえば、森の世話をするのは虫たちだけの手には負えません。そうなってしまうと、虫たちは木から樹液を吸えなくなって、生活できなくなってしまいます。実際にその森の中では、餓死してしまったカナブンの死体が発見されます。しかし、村人たちは「自分たちさえ快適ならばそれでいい」「虫たちに迷惑をかけようが知ったことではない」の一点張りでした。

▲作中では蛾の仲間に寄生して繁殖をする菌類である冬虫夏草と対比され、「こいつらは森に寄生している」と称されました。
最終的には村人たちは敵の操る甲虫によってまとめて殺されてしまうのですが、誰もが死ぬ間際には「これも運命だし」などと言って、生を諦めていました。彼らと最後までわかり合えなかった主人公は、煮え切らない思いを胸に、その森をあとにします。
このエピソードでは、若年無業者への批判という意味での社会風刺、共生することに基づいたギブアンドテイクの関係の重みが描かれました。また、彼ら村人たちが辿る結末から――メインテーマである命の儚さも表現していました。
このように旅をする主人公たちが様々な価値観の登場人物と触れ合い、こちらに何かを訴えかけてくるような話で構成されていました。その中にはこの9話のように、大団円では終わることがない、救われないような話も少なくなかったです。
3クール目以降は悲劇の当事者に
3クール目以降は世界設定の真相が明かされていくことで、ストーリーが核心に近付いていきます。それにしたがって一話使い捨てのキャラはほとんど登場しなくなり、主人公と敵だけで完結する話が多くなります。2クール目までは旅先で出会うキャラが悲劇に見舞われるような話が多かったですが、3クール目以降は主人公自身が数々の悲劇に襲われていき、自分の在り方や他人との関わり方について悩んだり葛藤したりしながら戦っていく話が増えていきます。言うなれば2クール目までは主人公は暗い展開の部外者でしたが、3クール目以降は当事者となり、戦渦の中へと身を沈めていきます。
同じキャラだけでだらだらと戦っていては、2クール目までと比べてメッセージ性は弱くなってしまうのでは? と、考えられると思います。確かに様々な価値観の人物と相見えることはなくなるので、話毎に別々の社会風刺や問題提起が行われるということは減ってしまいました。
しかしその代わりに上記で挙げた「親子」と「命」というメインテーマについて、主人公が仲間たちや敵キャラクターたちとの付き合いを通じて、深く語られていきます。それができるのは主人公たちと何度も対峙する、善とも悪とも言い切れない魅力的な敵キャラクターの存在があるからです。

▲黒幕に仕えている三人のキャラクターです。左から「グルム」、「パサー」、「チョーク」。見るからに悪の幹部という顔つきの彼らですが……。
彼らはただ悪いことをしているだけでなく、それぞれが明確な目的や野望を抱えており、とある理由を以って黒幕に従っています。さらにこの三人の誰もがメインテーマである「親子」か「命」について深い因縁があったり、強い執着をするような倫理観を持っています。
なので彼ら三人は森の民の伝説のテーマを誰よりも体現していて、このアニメには絶対に欠くことのできない役者たちです。森の民の伝説は主人公だけの物語ではなく、彼らの物語でもあります。彼らの因縁や倫理観については1話から綿密に伏線が貼られており、非常に見応えのあるものとなっています。
クール数を初めとしたいくつかの問題点
評価点だけでなく問題点もいくつかある作品なので、それらも挙げていきたいと思います。・蛇足とも言えるエピソードを含んだ4クール
これがこのアニメで一番問題だと思っているポイントで、僕がこのアニメを他の人にあまり勧めようとしない理由の大部分でもあるのですが、このアニメのクール数は4クールです。その計52話のエピソードのどれもが、シナリオの根幹に関わるような重要な話だったり、テーマに大いにあやかったメッセージ性の強い話なのかと言われると、そうでもありません。足踏みしてるようなエピソードも多々あります。なので人によってはどうしても冗長に感じてしまいます。
蛇足のような話が多いのは中盤以降です。中盤以降は前述の通り毛色の異なる物語になるのですが、主人公が葛藤したり敵と議論を交わしていく展開が増えた割には、進展が全く見られないような話が多すぎました。主人公はいつまで悩んでるんだ、いつまで同じ議論をしてるんだ、といった感じです。主人公たちに進展が見られないという意味では2クール目までも一緒ではありましたが、他の登場人物とのエピソードという意味では進展どころか解決までしっかり描かれているので、2クール目まではやきもきすることがなく見れました。
また、このアニメの第二の主人公と言われるキャラクターが、27話で大きなターニングポイントを迎える展開には賛否両論があります。
・子供向けとは言えない物語
「子供向けの皮を被った大人向けの物語」という話は冒頭でもしましたが、その問題点としての側面を掘り下げていきます。
このアニメの原作との共通点は「甲虫がバトルする」「『ポポ』『アダー』というキャラクターが登場する」のみです。主人公の仲間は甲虫を一切使わずに鞭や武術を使った戦闘をするので、そもそも甲虫同士の戦いがない話もいくつかあります。ポポとアダーが原作とアニメで共通している点は名前とビジュアルのみであり、性格・出生・目的などのキャラ設定は全くの別人です。
このように真に問題なのはシナリオの難解さというよりは、原作の雰囲気を踏襲してなさすぎることです。甲虫同士の戦いが魅力的でちびっ子たちを引き付けたゲームだったのですが、それがこのアニメではあくまでキャラたちの引き立て役にしかなっていないので、ゲームのタイアップ作品としてはいささか問題があると思いました。
まあ、ちびっ子の気持ちは自分にはわからないので、子供向けではないと言い切るには語弊を産んでしまうかもしれませんね。
・終始不安定な作画
作画が良い回と悪い回の格差がとにかく激しいです。僕はアニメ鑑賞はあまりしていないので、このような作画が誰だったかとか脚本が誰だったかなどの情報には疎いのですが、素人目で見ても明らかにキャラの造形が崩れているような回は多々ありました。


▲24話(左)と35話(右)のスクリーンショット。24話と比べると35話の作画が若干崩れてしまっていることがわかります。(どのアニメにおいても背景が雑に描かれることはしばしばあり、そこを切り取って作画崩壊だと騒がれることはあると思います。しかし35話のこのシーンは決して切り取ったわけではなく、24話と同条件で比較しております。)
上記の24話はストーリーの謎がひとつ明らかになる重要な回ですし、ラスボス戦となる49話以降の回も概ね作画のクオリティは高いので、大事な回の作画はしっかり描かれている印象を受けます。しかし大事な回だけに力を入れれば良いというわけではないですし、それまでとのギャップが激しすぎてはある意味では作画崩壊と成り得るので、総じて作画が良いと言えるアニメではなかったです。
生きてこそ、今ここから始まる
ムシキングのアニメといえば「鬱展開が多くてテーマが重い」と言われることが多いです。暗い展開が多いことは否定しませんが、テーマについてはここでは深く考察し、語らせていただきました。回を追う度に何度も投げかけられる社会風刺、様々な因縁が交錯することで産まれた親子の絆、そして全く別々の倫理観を持った登場人物毎によって定義されていく命の意義。重いの一言では決して片付けられないような、美しい内容がたくさん詰まっている作品です。それらのテーマを僕たちはアニメを見ていく中で、旅をする主人公と共に追い、「生きてこそ」の意味について考えさせられていきます。
そして、2クール目までに起こった悲劇と、3クール目以降に起こった悲劇。それら全てが収束して繋がるのが、物語のクライマックスです。旅の果てに、これまで旅の中で見てきた全てのもの、会ってきた全ての人々を心に留め、主人公はひとつの「選択」をすることになります。

▲「鬱キング」と呼ばれた物語は一体どのような結末を迎えるのか。ムシキングであってムシキングではない「森の民の伝説」の物語の終幕を、是非見届けていただきたいです。